【概要】
東北大学大学院工学研究科の手束展規准教授(知能デバイス材料学専攻・スピントロニクス学術連携研究センター)と日本軽金属株式会社は、低ヤング率(1)であり優れた成形性が期待されるAl-Ca合金のヤング率が加工・熱処理で変化するメカニズムを解明しました。これにより本材料のヤング率の制御が可能となりました。また、強度向上のためヤング率に影響を及ぼさないFeを添加することでAl-Ca合金の実用化の目途が立ちました。
【詳細】
実用Al合金はFe、Si、Cu、Mg、Mn、Zn等の元素添加、冷間・熱間加工(2)(3)、熱処理により求められる機械的特性(強度、伸び等)を制御していますが、ヤング率については68~72GPaとほぼ一定であります(図1)。一方、Al-Ca合金は内在する金属間化合物Al4Ca(図2)が非常に低いヤング率(E=20GPa)であるため合金としても低ヤング率であり、高成形性材料として期待されています。しかし、熱間・冷間加工、熱処理でヤング率が変化するため低ヤング率材として実用化には至っていませんでした。
今回、X線回折装置(リガク製SmartLab)を用いて熱間・冷間加工前後、熱処理前後でAl4Caの結晶構造が可逆的に変化(マルテンサイト変態)することを確認しました(図3)。すなわち、Al-Ca合金の加工・熱処理によるヤング率の変化はこのAl4Caのマルテンサイト変態に起因すると考えられます。よって、この変態の制御によりAl-Ca合金のヤング率制御が可能となりました。また、強度向上のためヤング率に影響を及ぼさないFeを添加することでAl-Ca合金の実用化の目途が立ちました。用途としては寸法精度の厳しい電子機器材料、また超塑性による高成形性材料等が期待されます。
この成果は、2017年2月26日からサンディエゴ(カリフォルニア・米国)で開催されるTMS 2017 146th Annual Meeting and Exhibitionにて、発表されました。
図1 Al-Ca合金と実用Al合金のヤング率と引張強度
図2 Al-Ca板材写真と金属組織像
図3 Al-Ca合金の圧延前後での機械的性質と構造の変化
【用語解説】
(1)ヤング率:細い棒を引き伸ばしたときの引っ張り応力と、単位長さ当たりの物質の伸びとの比。
(2)冷間加工:塑性変形を利用した加工方法。常温もしくは材料の再結晶温度未満で行なう加工である。主に金属材料で用いられる。
(3)熱間加工:金属を再結晶温度以上に加熱して行う塑性加工のこと。
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