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研究成果

高屈折率で透明なTiO2薄膜の簡便な作製方法を開発
~光学機器の性能向上や作製工程の簡素化・低コスト化に期待~

【概要】
東北大学大学院工学研究科博士課程2年石井暁大(日本学術振興会特別研究員)、高村仁教授らの研究グループは、日本電気硝子株式会社との共同研究により、高屈折率でなおかつ透明なTiO2薄膜をガラス基板上に低温で作製する技術を開発し、光の反射・透過を制御する光学コーティングの作製に成功しました(図1)。この技術により、液晶プロジェクターやカメラなど様々な光学機器の性能向上や作製工程の簡素化・低コスト化が期待されます。

図1  開発された透明で高屈折率なTiO2薄膜(左)とそれを用いた可視光ミラー(右)。

図1 開発された透明で高屈折率なTiO2薄膜(左)とそれを用いた可視光ミラー(右)。


【研究の背景とポイント】
カメラや液晶プロジェクターなどの光学機器では、光の反射・透過を制御するために、屈折率の異なる材料を層状に重ねた光学コーティングが利用されています(図2左)。このコーティングでは材料界面での光の反射を利用するため、高屈折率層としてより高い屈折率を持つ材料の開発が求められています。屈折率を高めることで、光学機器の高特性化が可能となるとともにコーティングの積層数が低減でき作製工程の簡素化や低コスト化が図られます。種々の酸化物の中でTiO2は最も高い屈折率を持つ材料であり、光学コーティングに広く利用されています。TiO2はルチル型(注1)という結晶構造になるとき屈折率が最大となりますが、薄膜でその結晶構造を実現するためには高価な単結晶基板や700°C程度の高温成膜プロセスが必要であり、ルチル型TiO2薄膜の実用化には大きな障壁がありました。そのため、現在広く用いられている真空蒸着やスパッタ法などにより作製されたTiO2薄膜は材料本来の高い屈折率を示しませんでした。

この課題に対して、本研究ではパルスレーザー堆積法(注2)でTiO2に微量のAlを添加することにより、安価なガラス基板上に比較的低温の350°Cで、光学コーティングに利用可能な高品位(透明・緻密・平滑な)ルチル型TiO2薄膜の作製に成功しました。ルチル型構造が誘起されるのは、一部のAlがTiを置換しアクセプター(注3)として機能することで酸素空孔(注4)が導入されるためと考えられます。この透明で高い屈折率を持つルチル型TiO2薄膜を光学コーティングに用いると、図2右に示すように従来品よりも広い可視光領域で高い反射率を示す高性能可視光ミラーが作製できます。

図2 光学コーティングの模式図(左)とAl添加TiO2薄膜(開発品)を用いる可視光ミラーの反射スペクトルの波長依存性(右)。開発品は従来品よりも広い可視光領域で高い反射率を示しうる。

図2 光学コーティングの模式図(左)とAl添加TiO2薄膜(開発品)を用いる可視光ミラーの反射スペクトルの波長依存性(右)。開発品は従来品よりも広い可視光領域で高い反射率を示しうる。

【今後の展望】
透明で高屈折率なルチル型TiO2薄膜をガラス基板上に比較的低温で成膜する技術が得られたことで、超高性能な反射防止膜など様々な光学機器への応用と、その製造プロセスの簡素化・低コスト化が期待されます。また、TiO2薄膜は光学コーティング以外にも光触媒やメモリー、二次電池電極材料として精力的に研究・開発されていることから、その結晶構造制御はこれら応用分野にも波及効果があるものと期待されます。

本研究成果はApplied Surface Scienceに掲載されました。


【論文情報】
題目: Low-Temperature Preparation of Rutile-Type TiO2 Thin Films for Optical Coatings by Aluminum Doping
著者: Akihiro Ishii, Kosei Kobayashi, Itaru Oikawa, Atsunori Kamegawa, Masaaki Imura, Toshimasa Kanai and Hitoshi Takamura
雑誌名: Applied Surface Science, 412 (2017) pp. 223-229.
URL: https://authors.elsevier.com/a/1UqvmcXa~knie
DOI: dx.doi.org/10.1016/j.apsusc.2017.03.253


【用語解説】
(注1) ルチル型TiO2: 酸化チタンの結晶構造の一つ。自然界では金紅石としてよく産出し、隠蔽性の高い白色顔料として古くから用いられている。安定な透明材料の中で屈折率が最も高い(ダイヤモンドの約1.3倍)物質として知られている。
(注2) パルスレーザー堆積法: ナノメートルの厚さを持つ薄膜を作製する方法の一つ。薄膜の元になる材料に強力なパルスレーザー光を照射しその表面を瞬間的に蒸発 (プラズマ化)させ、それを基板に集めて薄膜を作製する。
(注3) アクセプター: ある材料中に添加されるイオンの一種。元になる材料中のイオン(Ti4+)と比べ価数が小さい陽イオン(Al3+)で、自身は電気的にマイナスとなる。
(注4) 酸素空孔: 結晶構造の酸化物イオン(O2-)位置にO2-がいない構造欠陥のこと。


リンク先:
東北大学
東北大学工学研究科・工学部