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研究成果

プラスチックの劣化・健全度診断に新しい手法 テラヘルツ波を用いた非接触診断技術で安全・安心社会を実現

【発表のポイント】
  • テラヘルツ波を用いて、目では見えないプラスチックの歪み・劣化を非破壊・非接触で検出
  • テラヘルツ波は人体に安全であり、使用状態のプラスチックに適用可能
  • テラヘルツ波の非接触診断技術を用いて、予期しない破損を防ぎ、社会の安全・安心を実現

【概要】
生活給排水管の建築部材、機械部品、電気絶縁材として身の回りの様々なところで使われているプラスチックの機械的歪みや劣化は目で見ても分からないため、それにより引き起こされる予期しない破損による社会的損害は大きく、使用中のプラスチックの歪みや劣化を安全に診断にできる非接触診断技術の開発が望まれていました。特にプラントや電気設備、橋梁をはじめとする社会インフラには高度成長期に作られた50年を越える高経年のものもあり、樹脂製配管・タンクの破損や絶縁破壊、ケーブル劣化のために2016年10月に東京都心部で起きた大規模停電のような事故が起きると、インフラが機能しなくなる危険があります。

この度、東北大学工学研究科の小山 裕教授、田邉 匡生准教授の研究グループは、テラヘルツ波の特徴を活用することにより、プラスチックの機械的歪みや劣化を非破壊・非接触で診断できる技術の開発に成功しました。

テラヘルツ波はエネルギーの大きさとして室温と同程度で人体に安全であり、装置を小型にできるので、プラスチックが多く使用されているプラントや電気設備を稼動したまま、プラスチックの部位に対して、現場での非破壊検査がはじめてできるようになりました。プラントや電力業界における保守・管理にとても注目されています。

これは、テラヘルツ波の振動方向が歪みに対して平行および垂直であるときのプラスチックによる吸収の大きさが異なることを発見して得られた成果です。

本研究の成果は2017年9月に開催された日本金属学会2017年秋期講演大会(9月6~8日、札幌)ならびに応用物理学会秋季学術講演会(9月5~8日、福岡)で紹介され、その詳細はテラヘルツ波とマイクロ波に関する国際会議であるMTSA2017(4th International Symposium on Microwave/Terahertz Science and Applications、11月19~23日、岡山) において発表されます。


【詳細な説明】
テラヘルツ波は電波であると同時に光の性質を併せ持つ、非常に高い周波数(スマホ等で使う周波数の約1000倍高い周波数)の電波であり、その発生源の開発が近年急速に進み、非破壊検査をはじめとする様々な応用が期待されています。小山研究室ではテラヘルツ波の電波を出すために必要な結晶を作ることから始め、テラヘルツ波を使った分光測定、医薬品やプラスチックなどの有機材料、金属や木材・コンクリート等の無機材料のデータベース構築、絶縁被覆電線や橋梁用外ケーブル検査の応用等、発生源から新しい光学部品そしてその応用まで、一貫した幅広い研究開発を進めています。

今回は小山研究室で開発してきたテラヘルツ波(図1)が直線偏光であることを活かすテラヘルツ偏光分光に基づくポリマー(特にポリオレフィン系の結晶プラスチック)の内部歪みを非破壊・非接触で診断する新しい技術を実証しました。プラスチックは配管や絶縁材として、プラントや電気設備など身の回りにたくさん使われております。今回開発した技術を用いて、プラスチックの割れなどの破損や劣化を引き起こす原因となる内部歪みを検出することにより、プラスチックを安全に安心して使い続けることができます。テラヘルツ波はエネルギーの大きさとしては室温と同程度で人体に安全であり、装置を小型にできるので、プラントや電気設備を稼動したまま、プラスチックの部位に対して、現場での非破壊検査ができます。

従来、ポリマーにおける分子鎖の状態を知るにはX線などの高エネルギーを用いる大型装置や真空中や強磁場などの特殊環境、高電圧試験が必要であり、分析のために試料を一部切断・回収する破壊検査であったため、検査対象全体の状態を評価することはできず、局所に発生するひずみを検知することはできませんでした。

この技術は、ポリマーを構成する分子鎖のゆらぎがテラヘルツ波のエネルギーと同程度であり共鳴するという現象に基づき、分子鎖の並び方が歪みにより変化する様子をテラヘルツ波で検出するものです。分子鎖のゆらぎによるテラヘルツ波の吸収がテラヘルツ波の偏光方向が歪みの方向に対して平行及び垂直の場合で異なることから(図2)、歪みの大きさと方向を決めることができます。図3は一軸変形した超高分子量ポリエチレンのテラヘルツスペクトルです。それぞれのひずみにおけるテラヘルツ波の吸収が偏光方向で異なり、歪み方向に平行及び垂直な偏光方向の吸収の比率から歪みの大きさが決まることが分かります(図4)。

また、分子鎖同士が結びついている程度、いわゆるポリマーの劣化進行度をテラヘルツ波と共鳴する周波数シフトから知ることができ、廃棄プラスチックが再度プラスチックとしてリサイクルできるかどうかの判断を非破壊で行うことができるようになります。プラスチックは生産されるものの22%が材料として再生利用されていますが(2015年)、その4割程度がペットボトルとしての再利用であり、電線被覆などインフラや産業から排出されるプラスチックの循環利用は確立されていないため、プラスチックのテラヘルツ非接触診断は社会の安全・安心の向上だけでなく、再生利用の促進も期待できます。

図1 テラヘル波発生の概念図 ※ 実際には目に見えない光(赤外光)を使っています

図1 テラヘル波発生の概念図 ※ 実際には目に見えない光(赤外光)を使っています

図2 測定におけるテラヘルツ波の偏光方向と歪んだポリエチレンによるテラヘルツ波が吸収される大きさ

図2 測定におけるテラヘルツ波の偏光方向と歪んだポリエチレンによるテラヘルツ波が吸収される大きさ

図3 一軸変形した超高分子量ポリエチレンのテラヘルツスペクトル ※小山研ウェブサイトに動画があります(www.material.tohoku.ac.jp/~denko)

図3 一軸変形した超高分子量ポリエチレンのテラヘルツスペクトル
小山研ウェブサイトに動画があります

図4 各ひずみにおけるテラヘルツ波の吸収

図4 各ひずみにおけるテラヘルツ波の吸収


1方向に伸ばしているポリエチレンによるテラヘルツ波の吸収


リンク先:
東北大学
東北大学工学研究科・工学部