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研究成果

全ての色を強く等しく吸収する黒色コーティング材料を開発
- 液晶・有機ELディスプレイの黒がより美しく -

【発表のポイント】

  • 可視光を強く均一に吸収する新しい光学薄膜を開発
  • ディスプレイの暗い画像や深い黒色をより美しく表現

【概要】
東北大学大学院工学研究科の博士課程後期3年石井暁大 (日本学術振興会特別研究員) 、高村仁教授らの研究グループは、ワシントン大学および日本電気硝子株式会社との国際共同研究により、可視光全域 (波長400-700 nm) を強くかつ等強度に吸収する黒色コーティング材料を開発しました(図1)。これにより、液晶ディスプレイの弱点であった暗色表示がより美しくなります。さらに、本コーティング材料は有機ELディスプレイも含めた全てのディスプレイのデザイン性を高めることもできます。

この成果は国際学術誌Applied Surface Scienceに掲載されます。

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図1. 開発された黒色コーティング材料NbxTi1-xO2の外観と光吸収スペクトル

【研究の背景と課題】

液晶ディスプレイは薄く軽量で耐久性が高く比較的安価なことから、テレビやパソコン、スマートフォンなど日常生活のあらゆる場面で使用されています。しかし、バックライトからの非常に強い光を完全に遮蔽することは難しいため、高品質な深い黒色の表現や夜景など暗い画像を高いコントラストで再現することが困難です。この解決のために、黒色の領域や暗い画面を表示するタイミングでバックライトそのものの輝度を低下させる機構が開発されましたが、複雑な電子制御を要するため価格の増加を招いていました。そこで本研究グループでは比較的低コストで高品質な暗色表示を可能にするために、トップパネルに光吸収黒色層を含む光反射防止コーティング(注1)を塗布(図2)することを目指しました。今回開発したコーティングを高輝度のディスプレイと組み合わせることにより、高コントラストの暗い画像や深い黒色の表現の達成が期待されます。さらに、さらに本コーティングを施したディスプレイ表面は、非点灯時にも高級感あふれる深い黒色を備えていることから、OLED含めた様々な電子ディスプレイデバイスにおいてそのデザイン性を飛躍的に向上させ、高付加価値化させることが期待できます。

この光吸収黒色層を実現するには、可視光全域(波長400-700 nm)を強く均等に吸収する黒色材料を新たに開発する必要がありました。なぜなら、ほとんどの黒色材料は高エネルギーの青色光を強く吸収し低エネルギーの赤色光を弱く吸収するためです。カーボンナノチューブに代表される炭素系材料では表面の凹凸を利用して可視光全域の等強度吸収が実現されますが、光反射防止コーティングではナノレベルで平滑な表面が求められるため炭素系材料を用いることはできません。全く新しいメカニズムで可視光全域の等強度吸収を実現する材料を開発する必要がありました。

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図2. 本研究が目指す比較的低コストで高品質な暗色表示を可能にする手法

【研究のポイント】
私達はパルスレーザー堆積法(注2)により還元雰囲気で合成される様々な酸化物の光吸収特性を調査し、ルチル型二酸化チタン-ニオブ固溶体 (NbxTi1-xO2) が可視光全域を強く等強度に吸収すると発見しました。この材料では適切な組成制御により、可視光域における平均吸収係数18~19 μm-1かつその偏差1 μm-1以下が達成可能です。さらに、このルチル型NbxTi1-xO2薄膜は表面粗さ1 nm以下とナノレベルで平滑なため光反射防止コーティングに適応可能です。

ルチル型NbxTi1-xO2で可視光全域の等強度吸収が達成される大まかな理由は、還元された二酸化チタン (TiO2-x) の赤色光を強く吸収する性質と、還元雰囲気で合成される二酸化ニオブ (NbO2) の青色光を強く吸収する性質を兼ね備えるためです(図3)。TiO2-xでは還元により導入される電子が比較的自由な電子として振る舞うため、赤色光を強く吸収します。一方、NbO2では還元により特異なバンドギャップ(注3)を形成し、青色光を比較的強く吸収します。ルチル型NbxTi1-xO2では、この両者の性質を兼ね備えることで可視光の等強度吸収が実現されると考えられます。

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図3. TiO2-x, NbO2, ルチル型NbxTi1-xO2薄膜の吸収スペクトル

【今後の展望】
今回開発されたルチル型NbxTi1-xO2を用いた光反射防止膜により、暗い色を美しく表示できる液晶ディスプレイが安価に製造できると期待されます。さらに、本コーティングを有するディスプレイはデザイン性が高まり高付加価値化すると期待されます。さらに、本研究で提唱する新たな光吸収特性の制御方法は、太陽光発電や光熱変換など様々な光エネルギー変換に関する研究分野にも波及効果があります。また、電子伝導性を活用する応用として、全固体リチウム二次電池の電極材料への展開も検討しています。

【用語説明】

(注1) 光反射防止コーティング: 光干渉効果を利用し反射率をほとんどゼロにする光学コーティングの一種。一般的に、高・低屈折率の透明なセラミックスをナノスケールで交互に積み重ねて作製される。

(注2) パルスレーザー堆積法: ナノメートルの厚さを持つ薄膜を作製する方法の一つ。薄膜の元になる材料に強力なパルスレーザー光を照射しその表面を瞬間的に蒸発 (プラズマ化) させ、それを基板に集めて薄膜を作製する。

(注3) バンドギャップ: 物質中で電子が占有するエネルギー帯と、電子が存在しないエネルギー帯の間にある電子が占有できない領域のこと。物質が光を吸収する際には、物質中の電子がこのバンドギャップ間を遷移する。