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研究成果

世界最高の波長選択比を持つ深紫外光検出器を実現 - 地表の昼光下で選択的に深紫外光を検出できる防災・殺菌デバイスの期待 -

発表のポイント

  • 室内照明下で選択的に検出できる深紫外光検出器を開発
  • 火炎に含まれる微量の深紫外光の高感度検出による火災の早期発見が可能
  • 深紫外光の高い精度での照射による多様なウィルスに対する殺菌効果が期待

概要

紫外光はオゾン層により大部分が吸収され、地表付近ではほとんど検出されませんが、火炎に微弱に含まれ、殺菌効果が高い特徴がある深紫外光があります。

この度、東北大学大学院工学研究科の小山裕教授、田邉匡生准教授と大学院環境科学研究科の鳥羽隆一教授、大橋隆宏助教の研究グループは窒化アルミニウムガリウム(以下AlGaN)混晶の半導体材料を用いて、材料の組成を調整することで検出する深紫外線の種類を選ぶことができ、室内照明光に対する深紫外光の検出感度比が105を超える(世界最高水準の波長選択比)深紫外光検出器の開発に成功しました。

屋内照明や自然光のもとでも深紫外光のみを本検出器を用いて高感度に高速検出できるようになり、高感度検出による火災の早期発見が実現します。また、深紫外光の発光デバイスは実用的なものがすでに開発されており、適切な種類の深紫外光だけを高感度に検出できる本デバイスと組み合わせることにより、深紫外光の照射を高精度に制御できるため、深紫外光を私たちの生活で安全に使うことができるようになるだけでなく、ウィルスに固有の照射条件による高い殺菌効果も期待できます。

本研究の成果は応用物理学会春季学術講演会において発表されます。

※ 応用物理学会春季学術講演会は当初、2020年3月12~15日に東京で開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染の拡大防止のため中止が決定しました。講演会での発表はございませんが、本研究成果は2月28日に発行される講演予稿集(DVD)にて発表されます。

詳細な説明

紫外光はオゾン層により大部分が吸収され、地表付近ではほとんど検出されませんが、火炎に微弱に含まれ、殺菌効果が高い特徴ある深紫外光があります。深紫外光の光源は従来からの水銀灯だけでなく、高輝度の発光デバイスが開発されるようになり、樹脂硬化や分析機器などの産業応用に使われています。現状の深紫外光検出器は可視光と近赤外光も検出するシリコンフォトダイオードに深紫外光のみが透過するように設計された光学フィルターを取り付けたものが使われています。その光学フィルターは近赤外光と可視光だけでなく、深紫外光に対しても減衰が大きいという問題があり、深紫外光の種類ごとに検出できる高感度な検出器はありませんでした。

深紫外を検出できる材料のひとつとして、光デバイスやパワーデバイスへの応用が期待されているワイドギャップ半導体材料の窒化アルミニウムガリウム(以下AlGaN)があります。AlGaNは窒化アルミニウム(以下AlN)と窒化ガリウム(以下GaN)の中間化合物である混晶であり、組成比によってバンドギャップを3.4 eVから6.2 eVまで連続的に変化させることができ、検出できる光の波長としては深紫外領域を含む200 nmから365 nmにおいて連続的に選択できます。

研究グループは有機金属気相成長(MOCVD)法によりサファイア基板(C面)上に結晶欠陥を大幅に減少させたAlNバッファ層を形成し、連続して成長させたAlGaNの多層膜に対してNiを電極とするショットキー型の深紫外光検出器を開発しました。デバイス構造は図1に示すものであり、サファイア基板の方向から紫外線が入射することで、検出素子である半導体材料自体がフィルターの役割も果たすため、深紫外光のみを検出することができます。そのため、波長応答特性は図2に示すように、ゼロバイア電圧における波長応答度の感度ピークをAlGaNの組成に対応する260 nm付近の狭帯域に確認できるだけでなく、室内照明の可視光(波長:630 nm)に対する深紫外光(波長:260 nm)の検出感度は波長選択比3.4×105と世界最高水準です。

この検出器を用いると、屋内照明や自然光のもとで火炎から発生する深紫外光が微弱でも高感度に検出できるので、火災をごく小さい段階から発見できます。従来からある熱検知型火災報知器は感知に周囲環境の温度が上昇するまでの時間が必要でしたが、本検出器は離れている場所での火災でもミリ秒の応答速度で検出します。

また、深紫外光の発光デバイスは前述の通り、実用的な高輝度光源がすでに開発されており、必要な種類の深紫外光のみを高感度に高速モニタリングできる本検出器と組み合わせることにより、深紫外光照射の強度と分布を高い精度で制御できるようになります。それゆえ、私たちの生活で深紫外光を安全に使うことができるようになるだけでなく、ウィルスに固有の照射条件による効率的な殺菌も可能になります。身近なところでの深紫外光の利用展開が期待できます。

図1 開発した検出デバイスの構造

図1 開発した検出デバイスの構造

図2 各波長における検出デバイスの波長応答度

図2 各波長における検出デバイスの波長応答度