【発表のポイント】
- 磁歪Fe-Co合金の金属積層造形技術を確立し、自在な構造設計に成功
- ハニカム構造化により、単位体積当たりの振動・衝撃発電性能は約5倍、軽量も実現
- 日常生活で生じる身の回りの振動に利用可能
体調管理、老朽化や自然災害の影響を受けるインフラの点検などのためにセンサを取り付けてインターネットで異常を知らせるIoT(Internet of Things)技術の利用が広がりつつあります。センサには電源接続や電池交換を不要にするため、身の回りの未利用なエネルギーを用いる環境発電の開発が求められています。環境発電の代表的な例が、振動で磁場が発生する物理現象の磁歪(じわい)を利用して電気を取り出す技術です。
東北大学大学院環境科学研究科(工学部材料科学総合学科)の栗田大樹助教、成田史生教授とフランス・ロレーヌ大学のPascal Laheurte教授、Paul Lohmuller研究員は、東北特殊鋼株式会社(成瀬真司社長)と共同で、磁歪を示す代表的な素材であるFe-Co合金の金属積層造形技術を確立し、自在な構造設計に成功しました。
例としてハニカム構造の磁歪Fe-Co合金板を造形し、振動・衝撃発電試験を行いました。その結果、緻密な磁歪Fe-Co合金板と比較して約5倍の出力電力が得られました。このハニカム構造磁歪Fe-Co合金板は、非常に軽く、歩行時に生じる振動・衝撃を電気エネルギーとして回収する靴などへの応用が期待され、スポーツ・レジャー用品の多機能化にも対応可能です。また、我が国が推し進めているIoT社会、循環型社会の早期実現にも期待が寄せられています。
本研究成果は 2022年3月24日に国際学術雑誌 Additive Manufacturing (Elsevier)のオンライン版で公開されました。
<背景>
最近、IoT 社会、循環型社会の実現が進む中で、変形すると電気が生じる圧電材料や磁歪材料などによる環境発電注1が注目されています。しかし、その発電量が不十分であることが課題で、発電性能の向上が求められています。
<成果>
磁歪Fe–Co合金の金属積層造形技術は、任意の構造を自在に設計できる点が特長です。これまで、複雑な形状の磁歪合金を作製して発電性能試験を試みた例はなく、今回確立した技術でハニカム構造磁歪Fe–Co合金板の造形に成功し、振動・衝撃発電性能を高めた点は極めて画期的です。
図1 磁歪Fe–Co合金
緻密な磁歪 Fe–Co 合金板(図1a)とハニカム構造磁歪Fe–Co合金板(図1b)の振動発電試験を実施した結果、ハニカム構造化によって、共振周波数注2が低下することが明らかとなりました。これは、発電効率の高まる共振周波数が低下し、日常生活で生じる身の回りの振動に近づいたことを意味します。また、事前に予測していた通り、ハニカム構造磁歪 Fe–Co 合金板の振動発電性能は、緻密な磁歪Fe–Co合金板と比較して約5倍でした。これは、ハニカム構造内部に意図的に応力集中注3を発生させたためです。さらに、ハニカム構造磁歪Fe–Co合金板の単位体積当たりの衝撃発電性能も同様に約5倍でした(図2)。
図2 衝撃発電性能の比較
<今後の展開>
磁歪材料は、環境発電材料としての用途の他に,共振周波数または出力電圧の変化を利用して、粒子状物質センサに応用できます。磁歪式粒子状物質センサの感度は磁歪特性と重量に支配されることから、ハニカム構造をはじめとする軽量構造設計によって、物質センサとして高い性能を示す可能性があり、今後の研究展開が期待されます。
なお、今回の研究成果の一部は、Tohoku University-Université de Lorraine Joint Research Fund 2020、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)の支援を受けて得られたものです。
タイトル: Additive Manufacturing and Energy-Harvesting Performance of Honeycomb-Structured Magnetostrictive Fe52–Co48 Alloys
著者名: Hiroki Kurita, Paul Lohmuller, Pascal Laheurte, Kenya Nakajima, and Fumio Narita
雑誌名: Additive Manufacturing
DOI: 10.1016/j.addma.2022.102741
注1 環境発電:
身の回りにある熱、光、振動、衝撃などの未利用のエネルギーを電力に変換する発電技術。
注2 共振周波数:
物体に固有周波数の外力を加え続けると、振動し始め、やがて大きく振動する。この現象を共振といい、共振する周波数を共振周波数と呼ぶ。
注3 応力集中:
物体の内部で局所的に応力が増大する現象。この応力集中を起こす部分が材料・構造物の破壊の起点となることが多いことから、応力を集中させないことが材料・構造物設計の基本的な考え方である。一方、本研究では、大きな発電量を得るために意図的に応力集中部を設計している。
リンク先:
東北大学